恒川光太郎著「夜市」


以前に比べると格段に読書量が減っているし
新刊チェックなどもしなくなってしまったので
新人の作家をあまり知りません。
前から読んでいた作家の新作を惰性で読むくらいで
新しい世界を開拓する情熱がなくなっていた訳ですが
昨日、ステキな新人作家さんと出会いました。


夜市

夜市


それがこの方、恒川光太郎さんです。
「夜市」と「風の古道」という2編が収録された文庫ですが
どっちも素晴らしくステキで面白い。
ホラー大賞受賞作ですが、ホラーというよりはむしろファンタジーですね。

都筑道夫先生が亡くなられてから、惚れ込むような作家がいなくて
もう新刊が出るのを待つ(都筑先生の場合は古い作品を探すって方が多かったですが)あのワクワク感は味わえないのかと寂しく思っていたので、こういう方と出会えて凄く嬉しいです。
まだ30代なんですよね。
凄いな、才能っていうのはこういう風に現れるんですよねぇ。
ホラーという形式をとって描かれる世界は、家族愛や友情や人として生きていくために一番大事なものは何かという部分に集結していて、まるで説法のよう。
それを「まやかし」達に絡めて、興味深く上品な文体で表現されます。
この方の文章、物凄く綺麗です。
余分なものがそぎ落とされた、知的な文。
書かない、というのはこれまたなかなか難しいことだと思うのだけど
若いのになんて老成しているのだろうと感心し、羨ましくも妬ましくなってしまいます。
最近は携帯小説や素人小説ばかり氾濫する文学界だけど
こういう上手い若い人も、まだまだきっと大勢いるのでしょうね。



「風の古道」の方は漫画になって連載されているようですが
あの世界観を妖怪漫画みたいにしないでいてくれればいいなぁと、ついつい老婆心。
こういうものは絵や画像などの見えるものにせず
読んだ人それぞれの脳内で生きていた方が、ずっと生き続けていくものだと思います。
「妖怪」って、そうやって生き延びてきたんだしね。





都筑先生の作品に、ある窓から見ると人が醜い妖怪に見えるという話があります。
主人公の女性は、ここから見える醜い姿がその人の本来の姿なのではないかと思い始めるのですが
ある日、今まで見た事もないくらい醜い生き物を目撃し、それが恋人だと知って動揺します。
散々悩み迷っていた時、彼女の帰宅をその部屋で待っていた恋人が
帰宅する彼女の姿を見て驚愕し、あやまって窓から落ちて亡くなってしまうのです。
自分はどれ程醜い姿をしているのか。
そこで話は終わります。





人の脳内で創造されるものって、本当に見える形で表せるものではないですよね?
私など、同じものでも皆が同じように見え、聞こえるとは思っていませんから
尚更、それを画像などにすることに抵抗があります。
だからもう、京極作品を映画にするのはやめたらどうでしょう?(苦笑)



と、話がずれて来ましたが
「夜市」素晴らしいので、ぜひ読んでいただければと思います。
一番いいたいのは、都筑道夫先生サイコーということなので(笑)
ぜひ先生の作品を読んでいただきたいです。
上に書いた短編、どれに収録されていたのかなぁ・・・・。
題名すら思い出せない(膨大な著書数なんですよね)